政談165
【荻生徂徠『政談』】165
(承前) 元禄の時分でも、金銀が増えた勢いに乗じて世間の旅宿状態を改め、制度を確立させたならば、世の中は今のようにはならなかった。現在においても、旅宿状態を止めて制度を立て、世の中をよく揺り動かして落ち着かせたならば、金銀が正徳の半分になったとしても世の中は困窮しなかったはずだが、既にひどい困窮状態にあるのを直さなければ、旅宿状態を止めることも、制度を立てることも、はなはだ難しいことである。
総じて世の中の状態を変えるということは、人々が慣れ親しんだ事を変えるのだから、人々の望まない事に対して騒動となり、却って世間はますます困窮し、将来の良い状況は望めなくなってしまう。そこで、当面は世間がにぎわうことを行うのがよい。どのようにして世間をにぎわうようにするかといえば、銭を鋳造するのが最もよい。およそ、金銀の真贋や純度を金付石(かねつけいし)にこすりつけて調べ、品質がよい悪いと言うのは両替屋などの言うことで、これは大いに愚かなことである。その理由は、元禄に金銀に混ぜ物をして小判の質は悪くなったが、銭の価値はさほど変わっていないのだから、慶長小判と金の質も変わりはないはずである。現在、元禄の金銀から混ぜ物を除去して質はよくなったが、銭の価値は元禄と変わっていないから、これまた金銀も元禄と変わらないと言える。一両は一両であり、質をよくしたからといっても一両を二両として使うことはできない。元禄の金銀を吹きなおしせず、質の悪いままで流通している金銀の数を半分に減らしたのと全く同じであり、これでは世間が困窮するのも当然である。
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