政談149

【荻生徂徠『政談』】149

●諸色の直段の事

 いろいろな品物の値段の事は、近年のお上の物価統制策により少しは下がったが、物価が年々高くなるのには理由がある。この根本に立ち入らなければ、当座の策略では何の解決にもならない。

 現在流通している金の数は、元禄小判・乾金の時分の半分に減らし、銀は四つ宝銀の三分の一である。このため物の値段は元禄小判・乾金の時分の半分ほどのままで、いまだ元の値段に回復していない。この四、五十年以前に比べれば、多くは十倍から二十倍に上がっている。これでは世間の困窮も尤もで、この原因を調べずしてはとても回復はできない。物価を下げるためには、まずどうして物価が徐々に値上がりを続けたのか、そのいわれを知らないでは方策の立てようがない。


[語釈]今回より従来の「注解」を「語釈」と「解説」の二項に分割します。毎回、必ずこの二項があるわけではなく、現代語訳の本文の内容によっては必要のない項目は省略します。 ●乾金 宝永7(1710)年発行の金貨。良質であるものの慶長・元禄小判のほぼ半分の量目しかない。 ●四つ宝銀 正徳元(1711)年発行の銀貨。極めて悪質で、銀の含有率僅か20%。慶長銀の4分の1しかない。


[解説]幕府はたびたび貨幣の改鋳をしたものの、あとに発行されたものほど粗悪で、これが物価高騰の一因となった。改鋳のたびに「古い貨幣は新しいものと交換するように」という触れを出したものの、古い貨幣2両で新しい貨幣1両とか、大きさが半分になったり、含有率を下げるといったやってはならないことを繰り返したため、人々は古い良貨をとっておき、悪貨ばかりを使用した。まさに「悪貨は良貨を駆逐する」状態。貨幣の素材として金や銀を使うとこうなる。このため、現在は銅やアルミといった素材としてはあまり値打ちがなく、特に1円玉のように製造すると逆に高くつくために偽造する気にもならないようにしているため、一時、某外国の通貨で500円玉と大きさも重さも、そしてデザインも酷似したものが自販機で悪用されたといったことはあったものの、高額な紙幣に比べれば今の素材の貨幣の偽造は損するだけ。しかし、金貨、銀貨となれば鋳つぶして(もちろん鋳つぶすのは犯罪)利用できるので、金貨は早くに製造が中止され、銀貨も戦後、100円玉として百円紙幣に変わって発行されたものの、1966年をもって廃止、翌年から今の白銅貨になった。


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