政談148

【荻生徂徠『政談』】148

(承前) 私は唐の半弓の仕様を人に教えて、書物にある通りに出来て弓の力も随分と強いが、江戸で作らせただけにとても費用がかかった。また、作るのに手間がかかるため、商人などはなかなか作りたがらない。弩弓(どきゅう、いしゆみ)も書物にあるようによく出来たが、江戸では矢となる良い竹がない。竹もあくどい商人が自分の利益を第一として、すぐに売れる竹ばかりを江戸へ持ってくるから、諸国には良い竹もあるのにどうしようもない。楽器の笙(しょう)も江戸では良い竹がないから細工ができない。このような類の事も、武家が知行所たる田舎に住んで、そこで産物を作る気持ちがあれば、異国のものでも昔のものでも容易に作ることができるのである。

 右にいろいろ記した通り、制度を確立する事と江戸を仮の住まいとする状況をやめる事、この二つが困窮を解消する根本である。せわしない風俗については、上の思召し、老中の方針である以上、今更これをやめても他に方法はない。こういった現状であるが、困窮の上に更に近年は困窮がひどくなっている。それはおよそ次の三点である。一つ、物価が高騰している事。二つ、通貨のための金銀が減少している事。三つ、貸借の道が塞がって少ない金銀が流通しなくなっている事。以上の三点を改めなければ更に悪くなる。どのように改めるのがよいか、その方法を左に記す。


[注解]どのような立派な物も、それを作るのに金がかかりすぎては何にもならない。せっかく良い材料が各地にあっても、それをわざわざ江戸まで運ぶだけでも手間がかかる。現地に行って、直接自分の目で確かめるにしても手間暇がかかるから、注文して取り寄せる。すると、あこぎな商人はいいかげんな物を送って寄こすから使い物にならない。こういったことから、制作主の武士たちは地元に住み、そこでいろいろな物を作れば金もかからず、他の地域に住む武士たちと廉価で売買したり、物々交換をして経済的、ということ。


北斎画「半弓」


中国の「弩」

弩は混乱して「いしゆみ」という訓がつけられてしまったが、連射できる弓。洋弓の元祖のようなもの。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。