政談145

【荻生徂徠『政談』】145

 ●御旗本諸士の困究を救う事

 旗本の諸士の困窮を救うことについては、前にいろいろ述べたように、それぞれ知行所に住まわせて江戸が旅宿状態になっているのを解消することと、きちんとした制度を確立することで改められる。ただし知行所に住まわせるについては、その土地を栄えさせるようにする必要がある。私は長いこと田舎に住み、その後も田舎から来る人の話を聞くに、百姓は愚昧で、その土地で前から伝わっていない事についてはなかなかやろうとしない。このため、地頭に命じて、桑を植えて蚕を養わせ、麻を植え、漆の木を植え、楮(こうぞ)を植えるなど、田畑以外の樹木を山に植えさせ、どの地でも有効に活用できるように見極め、その地方が栄えるようにする方法がいくらでもあるだろう。


[注解]続いては幕臣たる旗本の困窮を救う方法について。旗本は高級官僚で、それぞれ自分の所領を持っています。中には大名に準じた大身(たいしん)の者もいて、大勢の家来がおり、領民がいました。かの吉良上野介や大岡越前なども旗本で、吉良は三州(三河)吉良の領主、大岡は同じく三州の西太平藩主です(大岡家は祖父忠世が相模国下大曲村領主)。本来は自分の領地の年貢によって自活すべきですが、幕臣として江戸詰めの身となると領地での行政や監督もままならず、年貢をいちいち届けさせることも難儀なため、地元のことは地元まかせとなり、普段の生活も幕府から支給される俸禄(役職によりその任期中だけ増額される)でやりくりすることから、地元とは疎遠になる。このため、徂徠は旗本もまた領地に定住させ、そこで自活させるとともに領民の面倒を見て、気持ちを一つにして土地が栄えるようにすることが困窮脱却のための良策であるというわけです。吉良はとても領民思いで、よく地元に戻っては自身で田畑などの見廻りをしたり、領民とも心安く話をして、時代劇で作られた悪人のイメージとは全く違います。


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