政談133
【荻生徂徠『政談』】133
(承前) 馬は牧場で飼育して年貢馬として納めさせる制度は、公家の代も、異国の代でも行われていた。関八州は古くから馬の産地だったのに、徳川の御代になって新田開発をしてしまい、今は牧場はなく、馬はわざわざ府中からお買い上げなさる始末である。秩父の荘司別当(しょうじべっとう)・斎藤別当というのは、昔の牧場役人を武蔵の国では別当と言ったことによる。関八州の中で特に武蔵の国の馬を賞翫したのは、武蔵野の牧場の馬が好まれたからである。甲斐の国は昔は牧場が多かったが、今、甲州の馬はよくないと言われている。これは、馬そのものが昔より質が悪くなったか、乗り方が昔と違ったためにそう言うのであろう。
[注解]関八州は古くは良馬の産地とされ、特に甲斐・武蔵・信濃・上野の4つの国からは年貢馬を納めさせたほど。馬役人は甲斐・信濃・上野では「牧監」に任じ、武蔵は「別当」に任じた。別当は「別」の字がついているように本務以外の任務を統括することで、それでも長官クラスで重い地位だった。時代により官職・官名は違いがあって複雑ですが、荘司別当のように一度その職を奉じた家が代々それを名誉として通称として呼ばれ続けることもあります。
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