政談122

【荻生徂徠『政談』】122

(承前) 今の武家はみな旅宿の境遇であり、制度がない世界ゆえ、知行地の米を売り払って金に換え、商人に頼んで用を足さなければ、今日という日さえ立ち行かなくなるため、商人の勢いが盛んになり、自然と商人の内に極楽世界のようなものが出来てしまった。

 世の中が困窮する原因は、おおよそ以上に説明したように本来の知行地に住まずに城下で旅宿暮らしをし、せわしない風俗と厳然たる制度がないからで、ではどのように困窮をなくせばよいか、それは次の通りである。


[注解]この章の締めくくり。徂徠は繰り返し、武家が本来の土地を離れて城下で仮住まいを強いられている結果、本来なら必要のないいろいろな事に出費がかさみ、しかも急な用事に即応するために値段が高くてもとにかくそれを入手することが先決であることから、高い買い物をする羽目になる。商人はといえば、値を高くしても売れることからあこぎにもさらに値をつり上げ、武家の足元を見る。こういったことで、商人、ひいては庶民全般が武家に敬意を払わなくなり、武家よりもいい格好をして、見分けがつかない状態にまでなった。身分制度のない平等社会ならまだしも、身分がすべてに優先し、社会の基盤をなしている以上、特に意識の点で下の者が上の者を見くだすようになり、それが世の中の風潮にまでなると、結局、上の者は武威、力づくでしか統治することはできず、それではかえって庶民の反発、敵愾心を煽るばかり。だからこそ、衣服をはじめとした事細かな規定(制度)が必要であり、幕府を開いた時点でそれをしなかったツケがいま、いろいろな現象となって現れてしまった、とする。しかし、嘆いてばかりもいられないし、遅きに失したとはいえ、今からでも可能な手立てはしなければならない。それについてこれから述べてゆくことになります。


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