政談111
【荻生徂徠『政談』】111
(承前) 衣服・住居・器物あるいは婚礼・葬礼・音信・贈答・供廻りの次第まで、人々の貴賎・知行の高下・役柄の等級に応じた次第があるのを制度という。今の世にも大抵それぞれに格もあるようだから、物の道理を知らぬ人は今も制度はあると思っているが、今の代にある格式といったものは、古より伝えられてきた礼ではないし、上がしっかり立てたものでもない。中には上から時に応じて出されたものもあるが、いずれもみな世の風俗から自然と出来たもので、世の風俗が移ろい行けば、格といったものも変わってゆく。下の成り行きにまかせたもので、その上になんとなく礼のようなものがあり、成り行きに応じて時々「このようにしろ、これはするな」と仰せ出されることであるから、真の制度はいまだかつてあったためしがないのである。
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