政談106
【荻生徂徠『政談』】106
(承前) 田舎の家作は山で木を切り出すことから始め、大工を呼び寄せ、幾日もかけて建てるゆえ、丈夫で長い年月を耐えることができるのに対し、城下は何もかも城下の町内で買い調え、例のせわしない風俗で急いで建てる。ことにその屋敷の主人も重臣たちも何もわからず商人まかせにし、長く出入りする大工に建てさせることから、この大工も自分で設計して建てる家を建てることがなく、人から与えられた家作ばかりが得意となる。大工は設計を材木屋に任せて間に合わせ、このように城下では何もかもみな商人任せである。その商人もまた城下の商人で、品物の出どころに詳しい土地の者ではない。ただ城下において売買が上手というだけの者である。このようであるから、公儀の請負いを担当する武士はその物に詳しくない者で、商人も知らなければ担当役人も無知である。熟達している者といっても、ただ城下においての取り捌き方に慣れているといった程度に過ぎない。監督する立場の役人は、ただ金が多くかからなければいいという料簡と、目付をつけて下の者が不正をさせないように注意するばかりで、自身は全くの無知であることから、商人にだまされ、城下の普請はますます劣悪になり、その損害は言葉にできぬほどである。昔の大工は家に門外不出の巻物があり、これにより古法を伝え守った。今の大工は生活に追われて細工など簡単な仕事ばかり請負うために、大工も次第に腕が落ちて住居も早く劣化する。
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