政談101

【荻生徂徠『政談』】101

(承前) 天下を平和に維持しても、大切なのは大名に対する制度である。その起こりは、家康公が江戸に入られた時分はまだ一大名であった。関ケ原の陣より大坂の陣までは、天下の諸大名は家康公に帰服したとはいえ、公はまだ天下の覇権を確立したとはいえないため、制度を定められる状況ではなかった。大坂の陣の翌年、ほどなくして公が御他界あそばされたために、法制を定める暇がなかった。それ以後は執政の面々がみな不学で和漢の古法に暗く、大名当時の制度を今に至るまで続けていることから、さまざまな乱れが生じたのである。

 されば、天領・私領ともに一年の年貢米を、食料にする分を残してあとはすべて売り払い、金にして、その金で諸国の物を買い調えて、毎日の暮らしに用立てているのが、今の武家の姿である。金でいろいろな物を買い調えなければ一日も過ごすことができないゆえ、商人がいなければ武家が成り立たない有様である。いろいろな物はみな商人の手にあり、武家は金を出してそれを求めなければならず、値段の交渉はしても、押し買いはできず、結局、値段は商人次第となる。このようなことは、武家はみな城下を宿として住んでいるために商人が利益を得、百年の間にこれほど商人が栄えるようになったのは、天地開闢より異国にも日本にもなかったことである。


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