政談96

【荻生徂徠『政談』】96

 ●古三代の制度を考え定むべき事

 古の聖人たちが上下の困窮を救う道として、なにも特別な妙術を設けられたわけではない。ただ、禹・湯・文王・武王の御代はその制度がよかったために、長い年数を経ても世の中は困窮しなかった。このため、夏(か)・殷(いん)・周の三代の王朝はいずれも五百年も続くことができた。漢・唐・宋・明(ミン)の各王朝は、それぞれ制度に違いがあり、その違いは各時代の勢いや様子を見、手っ取り早く治まる方法を模索したものであるが、よかれと思ったことが三代の制度に背いたため、却って害が生じて国が乱れることとなった。とはいえ、漢・唐・宋・明ともに全体としては聖人の道に則ったことから、いずれも三百年前後の世を保つことができた。


[注解]徂徠の政治論は、まず制度が確立していること、というもの。制度が万全であれば、世の中がどのように乱れようともすぐ正すことができるし、そもそも簡単に乱れるものではない、というわけです。徂徠在世中の世の中の乱れは(それ以前も)、家康公が幕府を開いた時にすぐ制度(法制)を確立、施行しなかったからで、どのような制度がよいかといえば、この章で詳述されるいわゆる「三代の制度・法」である、ということです。徂徠もまた大昔を理想化し、昔はよかった、しかし今は、という一般的な思考を持っている。ただ、昔の制度をすべて美化し、それを今の世に復活すべしということを言っているのではなく、まさに「温故知新」に則り、時代を超えて普遍的な制度の上に、時代にそぐわないものは捨て、現代に必要とされているものを含めるということ。あまり現代の時流に迎合したり対処療法的なものだと、三代の制度(万古不易の真理)に背き、自滅してしまう。どのように制度を確立するか、制度が確立すればどうなるか、具体的にいろいろ挙げて説明してゆきます。


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