政談94

【荻生徂徠『政談』】94

 ●当時困窮を改むる道

 徳川家において、諸大名を江戸城下に集め置かれる事、これは東照宮家康公の神慮より起こり、反乱を防ぐための扣(ひか)え綱となっている。しかし上下が今のように困窮したその果てには、諸大名は動く力もなくなり、困窮が真実で偽りがないのであれば、参勤を免除しなければならないことになろう。参勤を免除したとしても、上の御威光で当分は何事も起きないだろうが、そもそも免除は法を破ることであり、このような重い法を破る上は、収拾がつかなくなり、言語道断な事態となる。

 では、困窮を救う道は何かといえば、愚かな輩は上の御救い、上の御救いとすがって、金銀でも給わればそれが救済となるかのように言うが、幕府の御蔵の金をすべて救済に充てても、すぐに元の状態に戻る。これは上の御力も及ばない所であろうか。神仏などの力で如意法珠とかいうものを虚空より降らせたならば、上下万民の望みが叶うのであろうが、これはあくまで仏法の比喩の説である。昔から実際にこのようなことはない。では、上の御力でもどうすることもできないとしてそのままにしておいてよいものだろうか。


[注解]●如意法珠 これを所持していれば、願いをかければ意のままにそれが叶うという玉。宝珠。


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