政談89

【荻生徂徠『政談』】89

(承前) 現在は国持ち大名の封地替えがなく、あるのは譜代大名ばかりで偏っており、これはよろしくないことである。封地替えによる痛みおよそ十年に及ぶと昔から伝えられている。このため、昔は封地替えには必ず加増したもので、その後は金を下された。近年はそういうこともされなくなり、これはお上の不手際と言わざるを得ない。国持ち大名を痛めずに譜代大名を痛めるのは、何の道理もなく承服しかねる。老中になると関八州の地に封地替えをするが、それも詮無いこと。姫路・兵庫・淀・郡山などは要衝の地であるからという理由で、幼少の城主が就任するとすぐ封地替えをして年配の城主を置いたが、これも意味のないことである。たとえ城主が幼少でも家老がしっかりしており、武義を忘れない者であれば封地替えをさせずともよい。成人であっても武義の心がけが薄ければ何の益もない。今は見かけは大仰な城主でも、柔弱で下情に疎く、幼少と変わりないのがいるし、譜代とか外様といっても名ばかりである。


[注解]具体例として挙げられた姫路・兵庫・淀・郡山の各藩は、本書執筆から遠くない過去にいずれも就任した城主が7ないし8歳および13歳の若年のため、すぐに封地替え(転封)を命じられている。但し、大和郡山は京都守護の要地の故をもって、特旨により8歳の城主および5年後に跡を継いだ13歳の弟に対しては封地替えをせずそのまま郡山にとどまらせた。


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