政談84

【荻生徂徠『政談』】84

(承前) また、武家が田舎に住めば田地の様子、堤防の状況なども見聞して理解できるようになるから、役目を言い付けられて地方(じかた)代官になったとしても、江戸生まれの者が手代任せにするのとは雲泥の差がある。武家が知行所に住む場合は、江戸の勤番はひと月交替か百日交替の勤務がよい。勤番中は城の番は隔日あるいは三日の番になろうとも勤める。いくらひどい番であっても、旅宿のようなものならば勤まるもの。旅もたびたびすれば巧者になる。江戸詰めの間は男ばかりだから、火事や不慮の事態が起きても足手まといとなる者がないから、用心の点でも都合がよい。


[注解]●手代 代官直属の部下で、農政上の庶務を担当。商家でも番頭の部下を手代といい、同じく店の庶務を担当する。江戸時代の武家の職名は朝廷と違い、民間で使用するような俗なものが由来となっているものが多い。老中や家老といった名も年長者、熟達者を表わす「老」がついているが、若くして老中や家老になる者も多く、老人を表わす言葉ではない。若年寄は更に苦し紛れのような名で、実際には「少老」という名がよく使われたが、老中・家老よりは下ということを表すために「少」を「老」に冠した。若年寄も同じで、年寄(老)よりは下だから若(少)を冠した。大相撲の「年寄」と同じ。まだ若くても引退すると「年寄」と呼ばれる。奉行という名は「行い奉る」と下から訓読する言葉で、お上の御用(仕事)を仰せつけられ責任者として行う者ということ。この他、武家の職名を見ると俗なものがとても多いことがわかる。


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