政談81
【荻生徂徠『政談』】81
(承前) 馬盗人は、馬を盗んではおよそ二日かかる遠方まで走ってそこで売り払う。その馬が更に他へ売られてゆくため、行方知れずとなる。このような類はバクチ打ちも同様で、バクチ打ちも遠方に仲間がいる。仲間といっても知り合いではなく、同業の頼みで協力するから、いわば強盗に近い。強盗も遠方まで逃げる。だから、これらは皆同類である。私が田舎に住んでいた時、上総の横川村という所に四郎左衛門という者がいた。強盗の頭をしていた者である。年を取ったため強盗をやめて、後生の幸福を一心不乱に念じていた。その四郎左衛門から詳しく聞いた話である。百姓たちはこのような者と親しくすることで同類から襲われないようにしてもらったことから、村内や近所から悪人が出てもお上に申し出ないのである。中山勘解由(かげゆ)が盗賊改めとなってから、田舎でのこのような悪習は絶えた。これは勘解由が一人で悪人どもを捕らえ尽くしたのではなく、勘解由の荒々しい気風を恐れたからである。遠国(おんごく)では、公儀で勘解由のような荒い者を採用するようになってから諸大名もこれに倣い、その結果遠国でも悪事が起こらなくなったのであろう。しかし、今はまたバクチの類は盛んになっていると聞いている。
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