政談78
【荻生徂徠『政談』】78
(承前) 大勢の武家が江戸城下に集まった結果、火災が多くなり、常住する家のために同居する妻子が足手まといとなり、財宝が気になって消火もできない。町人、歌舞伎役者、遊女たちの風俗が武家も真似るようになって武家に悪影響している。いろいろ遊び事が多い所であるから、武芸や学問に身が入らない。また、常に城下にいることから公儀お膝元の空気に慣れてしまい、公儀のことを意に介さず、お上を畏れる心も薄くなり、行儀をたしなめば公家や上臈のようになるし、行儀など構わぬ時は町奴(まちやっこ)のようにもなる。
[注解]江戸時代は雅と俗が融合した時代と言われています。もともと宮中や武家の習慣だったものが庶民の間でもするようになり(煤払いもその一例)、庶民の間で流行ったものを武家でもするようになった。身分は厳然として存在するものの、日常の暮らしではそれを越えて影響しあった。狭い城下という空間でさまざまな階層、属性の人たちが接していれば、影響し合わないほうがおかしいというもの。歌舞伎役者の服装や髪形は常に時代の最先端を行くもので、大衆がさっそくそれを真似る。やがて下級武士たちも流行の着物の模様を裏地に使うなど、それとは分からない部分で採り入れる。行儀など構わぬ者は町奴の真似をする状態。これでは徂徠先生も嘆くのは当然。
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