政談75

【荻生徂徠『政談』】75

(承前) 譜代を多く召し抱えている者に対しては、上(かみ)より軍役の心得が良い者とし、譜代のいない者は軍役の心得がない者としたうえで、もし罪を犯して奉公人を処罰する場合も、譜代の者は真の主従とし、出替わり者は一時的な雇われ者と区別し、平日でも譜代の侍には袴を着用させ、出替わり者には刀だけ許すようにする。このように明確に区別すれば武家たちもいかに譜代者が良いかが合点がゆくし、悪しき風潮も改まるものだ。

 しかし、しょせん武家を知行所に置かなければ、城下で暮らせば物入りが多く、譜代の者を大勢持つのは難渋する。仙台や諏訪などの風俗を聞いたところ、三、四百石取りの侍は、いずれも譜代の侍を三、四十人も召し抱え、侍であっても草履も取らせ、提灯も持たせる。武士は本来、軍中にあっては誰であろうと草履も取れば提灯も持つ。それが今は家来は一つのことしかしないという悪風俗が支配し、昔の風俗は消え失せてしまった。


[注解]武士は末端にいたるまで庶民の手本となる立場。武士が乱れれば庶民も乱れる。そのため、武士の乱れは武士自身が直さなければならない。その一つとして、臨時雇いたる出替わり者で間に合わせるということはせず、何世代にもわたって召し抱える譜代の者で固め、武士としての自覚をしっかり持たせる。そのためにも武士は知行所(領地)に定住させ、戸籍で縛ることが基本であることを繰り返し訴えます。


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