政談73

【荻生徂徠『政談』】73

(承前) 元来、武家は知行所に居住し、召し抱えていた譜代者は百姓と変わりがなかった。無骨者だが誠実である。今、城下で召し抱えられている出替わり者は方々を渡り歩き、一カ所に定住する気持ちがないから、何事も世俗でいう「やりばなし」(やりっぱなし=いい加減)というものである。若いうちは渡り歩き、年を取れば辻番などになり、はては「乞食」になり、放火や盗賊をする類だ。やがて地味な者も年久しく江戸に住み、百姓仕事をしなくなり、麦飯やかて物めしをいやになり、奉公先で出会った娘と夫婦になり、町へ引き込み、ぼてふりといった行商などをして一生を送る。江戸暮らしが長くなれば、家に出入りするなじみの者たちもみな町人ばかりとなる。ただでさえ江戸城下は町人の中にあるのに、身になり、ためになり、その家になじみがあって出入りする者が皆町人となれば、武家の子どもたちが町人のような心根になってしまうのも道理である。


[注解]徂徠の主張は、武士も以前のように所領に土着し、いたずらに城下(都市)に集中させるべきではないということ。それをきちっと制度化する。都市に集中すると、使用人たちを雇わねばならず、カネさえもらえればいいという気持ちだからその家その主人のために尽くすという気持ちを持たず、平気で悪事をしたり、何かあればさっさと辞めてしまったり、時には脱走する者も出る。これだから城下の雰囲気は悪くなり、その空気がさらに悪事を助長する、というわけです。


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