政談69
【荻生徂徠『政談』】69
(承前) この機に乗じて奉公人の給金は次第に値上がりした。四、五十年以前は若党の給米は二両、中間(ちゅうげん)は三分一両、針女(女奉公人)は一両、半下(はした=下女)は一、二分だったのが、今は若党は三両二、三分が最も安い給金で、中間は二両一、二分、あるいは三両、その上の者もいる。針女は三両ないし四両、半下は二両より上といった具合である。今は武家や職人たちも次第に給金が高騰し、ひとたび火事に遭えば身分相応に使用人を持つこともできない有様である。
[注解]松平伊豆守が奉公人の給金をカットしたために奉公人の雇用状態が悪くなり、皮肉にもこれが人手不足を招き、給金を上げて奉公人を集めなければならない状態となった。伊豆守が始めたというより、複数がほぼ同時に始めたようですが、とにかく安易に緊縮財政をやった結果、質の悪い者ばかり集まるようになり、さらに持ち逃げといった悪事までしでかすように。奉公人がいなければ武家も商家も主人一家だけではなにもできないのだから、どんどん給金を上げて人集めをする羽目に。ひとたび火事(自分の家から出火するよりも延焼のほうが多かった)に遭えば、火災保険などない時代だから、すべてを失う。もはや奉公人を持つことすらできない。損して得取れとは難波のあきんどの矜持ですが、武家(為政者)や商家(実業家)の多くはいかにケチって我が身が得をするか、そんなことばかり考えるため、庶民の暮らし向きは苦しくなる一方。
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