政談66

【荻生徂徠『政談』】66

(承前) 田舎の百姓にも城下の風儀がうつり、面倒なことを嫌い、さっぱりしたことを好む風俗となり、譜代者は損だ、出替わり者がよいという料簡になり、譜代者が少なくなったために、大百姓も田地を残らず耕作するにあたり、譜代者の作男ではなにかと経費がかかるからという理由で小作百姓にそのつど手伝わせて自分では耕作をしなくなった。この結果、小作百姓に難儀が降りかかり、暮らしが厳しくなっているが、今はどうしようもない状況である。


[注解]農民にも階級があり、大庄屋、庄屋から本百姓(大百姓)、小作人、被官(下人)といったようになっていた。本百姓までが自立して生計を営み、戸籍にも登録された。もちろん、年貢(納税)の義務を負い、権利もあるが責任も重かった。小作人以下は使役される身で、自身に年貢の義務はないものの、本百姓の言われるがままの仕事をしなければならず、西洋のような明確な契約社会でもなかったから、あれをしろ、これをやれ、と言われ、拒否はできなかった。もちろん決まった給金もなく、下人に至ってはただ食べさせてもらうだけの身でした。もともとこういったタテ社会である上に、本百姓たちが楽はしたい、経費はきりつめたい(つまりケチになる)といった風潮が蔓延し、そのしわ寄せが当然ながら下の者たちに襲いかかった。これも城下の悪しき風儀のせいである、つまりご政道が悪いからだと厳しく突き付けています。


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