政談58
【荻生徂徠『政談』】58
(承前) されば、前に述べたように人返しを行ったならば、新たに「乞食」「非人」となった者のうち、実家を詮議してそこに戻す方法もあろう。これは平人の人返しとは異なり、地頭の知行所での政治が悪いからだけではない。江戸城下の政治も悪いために、次々と「非人」が出るのである。よって、実家に戻す際には路銭などは公儀の負担とすべき。城下に「非人」が多いのは奉行の恥であるということをよくよく弁えたならば、「非人」に対する対処の仕方もいろいろあるというものである。
[注解]刑によって「非人」手下(てか)とされた人のほか、家業が嫌だったり、都会で遊び暮らしたいといった人たちが次々に江戸に来て、正業に就くこともなく、毎日ブラブラ遊び歩いたり、店に奉公はしたものの、金品を持ち逃げするケースが増えているといった実状は既に徂徠が明らかにしたところで、住所不定無職の無宿人もまた逮捕されて「非人」とされた。あるいは「乞食」として徘徊する。こういう新たな「非人」たちは「非人」として浅草などに集めるのではなく、実家のある本国へ強制的に送還し、旅費も幕府が出すべき、という提言。旅費は出さず、ただ追放処分にしても遠方の者ほど困窮し、また江戸に戻ったり、道中で悪事を働き、本物の悪人と化す恐れもある。行政とはどこまで手当てをするべきかを考えさせられる段です。
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