政談37

荻生徂徠『政談』】37

(承前) このように真の治めをしようとしても、前に述べた戸籍の法が確立していなければ叶わないことである。戸籍の法を立てるには、江戸も田舎も諸国も、その土地の人に関することであるから、まず総人数を把握する必要がある。いにしえは地を量って民を置くということをした。六十余州すべての国々の人別を調べ、城下と関八州それぞれの総人数を考えるには、関八州より収穫される米穀で城下ならびに関八州の人たちの一年間の食事の量をもとにして、城下の人数を定めるのがよい。諸国より来る旅人ならびに諸大名の家来は別とする。これらの人については、諸国より来る米を食するようにさせる。現在、城下にいるのは多くは諸国の人であるから、右のように城下の人数を制限し、あとはすべて諸国へ返す。返す方法は地頭に申しつけて人返しをさせるのがよい。

[注解]●いにしえは地を量って民を置く 『礼記』(らいき。儒家の経書(けいしょ=テキスト)のひとつ)王制篇にある「およそ民を居(お)くには、地を量って邑(ゆう=むら)を定め、地を度(はか)って民を居(お)く」という言葉を踏まえている。政治の基本の一つとして、土地の状態をよく調べて人が住める土地であれば邑を置き、その邑でどれだけの生産力があるかによって住む人数を決める、というもの。

 徂徠は膨張を続ける江戸が風紀が乱れて犯罪の温床になっていることを憂慮し、特に江戸城下については旅行者や参勤交代などで一時的に住む武士を除き、住民を制限すべきと説いています。その根拠として礼記を引き合いに出している。いつの頃からら、遠い父祖たちが住むようになった土地が本来の居住地域ですが、それとは別にさまざまな理由や思惑から都市に移り住む人たちが増える。そういった人たちは本来の土地へ戻すというのはなかなか荒療治で、しかも江戸に移って二代、三代となると、この人たちにとっては江戸が故郷。しかし、こういた人たちも戸籍が完備されていれば本籍地は田舎(天領)、諸大名の領地なのだから、思い切ってこういう人たちも元の場所に返すのがよいというわけです。そこまで言う理由がさらに以下に続きます。


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