政談33

【荻生徂徠『政談』】33

(承前) このようにしっかりした法に替えたならば、先述のごとく隠れ家がなくなるだけでなく、町内村内の人たちは互いに自然と親密になるゆえ、悪いことをしようとすれば互いに注意をし、注意された者も聞かないわけにはいかない。互いに見放すこともなく、ねんごろな仲となる。このような状態の上で奉行がしっかりと治める仕事に尽くし、名主に指示して目を行き届かせたなら、町内村内の関係も睦まじく、風俗も改まり、悪人は出ないようになる。昔の立派な為政者はこのようであった。井田(せいでん)の法を王道の本(もと)と言うのも実は以上の状態のことで、ただ田地を碁盤のように分割して耕作させることと理解するのは大きな誤りである。


[注解]●井田の法 田地を井の字形に区割りし、8つの家に周囲の8区画をそれぞれ耕作させ、真ん中の1区画を公田として共同で耕作させてこれを貢納させる制度。もともと孟子が提唱したもので、相互扶助により生活を安定させるとともに税収も確保できるものとして善政の象徴とされた。

  徂徠は儒者であり、儒学を信奉しているものの、聖人の教えを無批判に信奉して受け売りをするのではなく、政治家として現実に有効か机上の空論かを見極め、この段のように優れた制度とされてきた井田の法も形式だけ整えればよいというものではないことを注意しています。それに従事する村人たちの関係が良好で、不審な者が隠れ住んでいないことが欠かせない。どんな制度もただ押し付けてよいというものではなく、そこにいる人を思う。これが行政の根本です。都構想はよい、住民のためになると喧伝するが、どこまで住民のことを慮っているか。住民投票で意思が示されたならそれに従うべきで、賛成多数になるまでやるというのでは、住民を無視しているという誹りを受けるのは当然でしょう。

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