政談29

【荻生徂徠『政談』】29

 〇旅人をその所に留置くしまりの事

 旅人はその人の本在所より縁故を以て添状を持参したならば、名主へ届け出るようにする。親類がいる場合は添状は不要で、ただ名主へ一言断わりを入れる。いずれの場合も旅人はその土地の名主へ申し出るようにさせる。なにか事が起きた場合、添状を持参している場合は添状を発行した者の科(とが)となり、持参していない場合は当事者間の事としてその旅人を請けた者の科になることから、名主は詮議の対象とはせず、ただ事情を聞くだけにする。旅人が商人などでしばらく店を持つのであれば、その添状を請けた者に請判(うけはん)をさせる。他国での滞在は三年を超えてはならない。また、旅人に妻を同伴させてはならない。故郷を離れて他国の人となるのは、旅先で生活を営むことになるからである。これらは名主の責任において固く禁ずるようにする。もし、他国より聟(むこ)養子として来る者があれば、元の人別帳から抜いて新たな土地の人別帳に入れることとなり、奉行所へ届け出るようにする。


[注解]続いては旅人についての取り締まり法。同じ日本とはいえ、当時は幕府があり、藩があって、一生その土地で暮らすのが鉄則であり、次第に旅行が緩和されたとはいえ、旅券が必要でした。まさに外国へ行くのと同じこと。それだけ人の移動を警戒したわけです。とはいえ、特に商人の場合は物流を請け負う関係上、地方と中央各地に本店や出店(支店)が必要で、従業員の往来や異動もあれば、出店で人を雇う必要もある。また、特に武家は家を守る必要から当主に子がない場合は養子が必要。ほぼ対等の家格の中から養子となる男子を求めて迎える。この時も場合によっては旅行することになる。とにかく、どんな理由にせよ、人が移動する場合はそれを把握するために届け出の義務付けの徹底を徂徠は説いています。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。