政談23
【荻生徂徠『政談』】23
〇欠け落ち・逐電のしまりの事
欠け落ち・逐電の類、近年は行方知れずの者は永尋(ながたず)ねとなるが、奉行が交替すると引継ぎがなされず、江戸へ出て人並みに店を持ったり奉公をするなど、その数が分からない状況である。公儀のお尋ね者でさえこのような有様だから、ましてやお尋ね者になっていない欠け落ち・逐電の類はすでに府内にいて、ただその実家の町や屋敷において欠け落ち・逐電と言っているだけである。このように法が確立されておらず、いたずら者の天下となっている世界は実によくないことの第一である。
[注解]●永尋ね 欠け落ち者の届け出があると奉行所では親類や町役人に対して30日を期限として捜査を命じる。期限までに見つからないと更に30日延長する。これを6回、180日間延長しても分からないと永尋ねとして永年(無期限)の捜索対象となった。
基本的に引っ越しが認められていなかった当時、一時的に別の場所に住む場合でも許可が必要でした。それほど厳しかったから、欠け落ちや逐電は厳罰であることは既に述べられてきたところですが、まずは捜索願いが出されたら奉行所は関係者を使って捜索させる。永尋ねという変わった制度により、最終的には見つかるまで捜索対象となる。しかし、これは建前。実際には奉行が交替すると引継ぎは充分に行われず、凶悪犯ならともかく、実家から逃げ出した者すべてを探し続けるだけの余裕はないし、面倒くさい。親の敵(かたき)を探す子のような強い意志や執念もなく、永尋ねといえば聞こえはよいが、事務的に継続させるだけで、実質的な捜査態勢はなくなる。この結果、法は有名無実で、いたずら者たちが好き勝手できる世の中になっていると徂徠は嘆く。徂徠は再三にわたり、法を確立させることを説くものの、一方では、法が確立されてもそれを運用、行使する者がいい加減だと法はあって無い状態になるとも警告しています。
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