政談22

【荻生徂徠『政談』】22

(承前) このように法を確立させれば奉公人はまじめになり、不埒なことはしなくなる。その上、地頭・代官も無分別に奉公に出させてはならぬと名主に申しつけ、名主の世話になることから、奉公人の吟味もしっかりしたものになる。田舎において親や親類と仲違いしたり、悪事を働いた者が江戸を隠れ家にするために形ばかり奉公するということもなくなり、田舎もよく治まることだろう。以上のことが行き渡れば、武家はその知行所の者を使い、たとえ手に余る者であっても、親類やごく親しい人の元でなければ遣わしてはならない。代官所の人は、御蔵米取り並びに町方で召し使うことにする。諸大名も渡り者を使うことは自然となくなるだろう。されば足軽・中間(ちゅうげん)並びに家中の召使いは、知行所に人がいない場合は他所へ出た者を人返しさせる。諸大名がみな人返しをするようになると、城下の雑人は少なくなる。城下の出替り奉公人は関八州の人に限るのがよいだろう。遠国(おんごく)は地頭・代官にとってなにかと不便であるから。


[注解]●御蔵米取り 知行所を持たず、領主の収納した年貢米の中から俸禄を受ける武士のこと。切米(きりまい)取り。 ●渡り者 渡奉公とも。奉公先が一定せずあちこち移りながら奉公する者。 ●人返し 農村から城下に移住した者を強制的に戻すこと。 ●関八州 関東8か国の総称。相模(さがみ)・武蔵(むさし)・安房(あわ)・上総(かずさ)・下総(しもうさ)・常陸(ひたち)・上野(こうずけ)・下野(しもつけ)の8か国。関東八州。このうち天領30万石は当初は関東代官が管轄し、伊奈氏が代々継いだが、改易されたのを機に関東郡代と改められ、強大な権限が分割された。吉宗の頃はまだ代官で、勘定奉行の支配となっていたのを老中直属に改めた。

 城下の都市化が進むといろんな人が集まり、人手が不足して更に人を集める。短期間であれば誰でもいいということがあだとなり、最初から主人の家の金品を盗む目的で雇ってもらう者や、故郷で悪事をしでかして身を隠すために奉公人となる者が続出した。このため、奉公人をできるだけ使わないようにするのはもちろん、使う場合は知行地の者で、名主が本人を把握し、地頭や代官に責任もって届け出るといった仕組みにするのがよいと徂徠の提言。吉良邸が御廓外(おくるわがい)の本所松坂町へ強制移動させられたことから、吉良邸では警護の者から雑用係まで、知行地の三州吉良の者だけを召し抱えた、というのも、身元確かな者が安全だというわけです。これは時代が遡りますが。

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