政談20
【荻生徂徠『政談』】20
(承前) 奉公人が病気になったならば、主人の方で面倒を見、養生させること。もし亡くなったならば、主人の方から寺へ引き渡し葬式をする。どちらの場合も実家や親類から願いがあればそれに任せる。期限つきの奉公人であっても、その生死が主人側にかかっているからには、病気や死後のことといえども深く関わるのは道理である。
[注解]短期の雇用であっても、使うからにはその期間の責任を主人(使用者)が負うのは当然で、病気になったらそれで雇用は中止、国に帰れ、という冷淡なことをしてはならない。ましてや亡くなってしまったならば、葬儀一切主人が持つのは当然だ、ということ。ここまで面倒を見れば、金品の持ち逃げをしようなどという気を起こす者は全くいなくなるということはないにしても、大幅に減るはずだ、というわけです。現代の薄情な雇用形態、財界や政府の人を使い捨ての部品としかみない態度をみると、時代は確かに後戻りしていると言わざるを得ません。奉公人が犯罪に走らないようにするには法律を厳しくする、という考えもある一方で、それ以前に奉公人が安心して労働に打ち込めるように主人がお膳立てをし、病気や死亡することがあっても、その面倒もすべて見るようにさせるという徂徠の情ある主張は、過労死させてもなんとか自分たちの責任を軽くし、世間の評判も悪くならないようにさせようとする大手企業の経営者や組織に対して今ほど重く響く時代はないでしょう。
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