政談19

【荻生徂徠『政談』】19

(承前) さて、奉公人の取り逃げ・欠け落ち・引き負いや、何か仔細があって契約期間の途中で暇を出す場合は、地頭や代官の方へ届け出るようにする。その際、たとえその主人が町人であっても受理し、名主方へ通知し、必ずその奉公人の実家や親類よりその者を探し出させて主人へ引き渡し、主人の気持ちで再び雇おうとも、武家ならば斬罪にしようと自由にさせるのがよい。町方ならば主人が給金を取り戻そうがどうしようが、これもまたその主人の気持ち次第に任せる。代理人を立てることは禁ずる。その理由は、村から奉公に出るということは、出る者の家産を相続させるためである。代理で奉公しようなどと思う者はめったにいるものではないが、こういう例はないこともない。取り逃げ・引き負い等は、武家ならばその主人の方で斬罪にし、町人ならば町奉行所へ引き渡しの上斬罪にする。弁済させて許すことはならぬ。なぜなら、取り逃げ・引き負いはその者の悪事で、実家や親類は全く知らず、雇っていた主人が損害を負ったからである。


[注解]討ち入りを果たした赤穂浪士たちを法により処刑すべしと将軍に進言した徂徠の厳しい姿勢がここにも見えています。雇ってくれた奉公先の主人の家の金品を持ち逃げした者は武家、町人を問わず斬罪にすべしという。赤穂浪士に対しては、同じ死刑でも武士としての名誉刑である切腹(自分で自分の始末をつける、責任を取る究極の形態。もともとは自分の無実あるいは赤誠を示すために腹を掻っ捌き、はらわたをつかみ出して見せるという行為から起こった)を賜わることで世間の更なる反発を防いだものの、ここで取り上げられているのは正真正銘の悪事。徂徠は容赦しません。今なら、盗まれた側にも落ち度があったのではないか、といった自己責任論も出るでしょうが、悪事は悪事。この点は徂徠は厳格です。特に武家に対しては厳しい。

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