政談10

【荻生徂徠『政談』】10

(承前) 盗賊捕縛については、先手組と持筒組らの兼役として交代で江戸中を巡回させるべき。武家においても盗賊や悪人を捕縛したならばただちに奉行所役人に引き渡すようにし、勝手に処罰することを禁ずる。但し、手向かいして捕縛が困難な場合は斬り殺してもやむを得ない。


[注解]●先手(さきて)組、持筒(もちづつ)組 どちらも江戸城の門周辺を警備し、将軍が外出する際は隊列に加わり警護した。持筒は鉄砲のこと。仕事柄、体力があり、荒々しい者たちが配属された。どちらも組頭を筆頭に、先手組は弓組10組、鉄砲組24組、それぞれ与力(10騎。与力は「人」と言わず「騎」と言い慣わしている)、同心(30ないし50人)で構成。持筒組は4組で与力10騎、同心55人。

 先述のように、江戸時代は奉行所が容疑者の逮捕、検挙から裁判までを一手に担当したため、極論すれば奉行の裁量でどうにでもできたし、逮捕する同心や目明しに犯人が金品を渡して手心を加えるよう頼めば、生活が苦しい同心の中にはそれに応じてしまう者もいた。徂徠は徹底した法治主義者で、将軍すら法に従わなければならないといった立場だった。だから、警察と司法は完全に分離し、犯人がいくら同心らに賄賂を渡したり泣きついても、審理をし罪を決めるのが別の者であれば同心らの腐敗もなくなるし、公正な裁きが受けられるように進言した。捕縛する際、犯人が凶器で激しく抵抗するような場合はその場で斬り殺してもよいというのは、徂徠もまたその時代の人としての限界を示すものです。今なら警官が威嚇のために発砲をしたり、最悪でも足などを負傷させて抵抗、逃走できないようにするのが限度で、殺す権限はありません。

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