政談9
【荻生徂徠『政談』】9
(承前) さて、武家屋敷一町ごとに木戸を付け、夜間の外出を禁じ、大名並びに槍を持たせた者以外は通行を厳禁とする。町屋もこのようにすべき。公用並びに私用でも急病人や産婦のために医者並びに取り上げ婆などの送迎は町送りにすること。このようにすれば、冒頭に述べたさまざまな悪事は起こらない。
[注解]●町送り 町役人や木戸番人が付き添って次の町との境にある木戸でそこの町役人や木戸番人に引き渡す。このように順送りにして送り届けること。
武士は建前上は将軍や藩主らを護衛し、有事には戦闘要員として働く者なので、江戸時代のような泰平の世でも、常に有事を意識した体制を取り、暮らしも制約されたものでした。夜間の外出禁止もその一つ。どうしても外出しなければならない用事がある場合はその旨を届け出る。外泊はもってのほかで、たとえ深更でも必ず屋敷に戻らなければならなかった(これもやむを得ず外泊する場合は許可が必要)。夜間は主人が就寝し、外敵が襲いやすい時間帯なので、家臣らは護衛のために自分の家や部屋(勤番侍や独身者らは屋敷を囲む長屋の部屋住まい)に居ることが鉄則でした。ただ、この理由も建前で、実際には平和でしかもヒマを持て余す者が多いため、夜の街に繰り出して飲んだり色街に繰り出したりして素行の悪い者が続出したため、幕府や藩の体面を傷つけることから、夜間の外出はならぬという禁令が武家の世界で特にうるさく言われたものです。町人も深夜営業はダメで、女性の独り歩きはもっての外。どうしても出る必要がある時は、必ず頭巾を被り、店の娘などは必ず手代など男衆を同行させた。丁稚は主人に同行。子どもの丁稚では女性の護衛は頼りないので。
徂徠の策は厳重に過ぎるように思えますが、奉行所役人があまりにも少なく、すぐに増員できない状況の中、今直ちに可能で効果もあるということから木戸の設置と夜間外出禁止の徹底を提案したもので、これが最良ということではありません。つづく
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