政談7

【荻生徂徠『政談』】7

(承前) このような状況から碁盤の目を盛る私の考えとしては、武家屋敷も町奉行の管轄する町方のように一町ごとに木戸を付け、木戸番を置き、一町ごとに肝煎(きもいり=世話役)を申しつけて連絡を密にし、盗賊や捨て物などがあれば木戸を打たせ、夜中であれば拍子木または竹笛を吹き、諸人がただちに出動するようにさせる。今の辻番というのは何の役にも立たず、各屋敷の規模に応じて辻番の経費を出している。この経費では、木戸を付けて木戸番を置くよりも高くつく。町内では堀端には木戸がない。ここにも木戸をつけたい。江戸外れ、田舎との境界にも木戸が必要。和漢の古法によればこのようになる。夜間の外出を禁じるのも古法である。つづく


[注解]●木戸番 江戸の各町ごとに道路の両端を木戸で区切り、午後10時以降は門を閉め、くぐり戸から出入りさせた。防火・防犯のためで、この番人を木戸番といった。必要経費は家主(狭義の町人で、商家の主人)が負担。額は持ち家の間口の間数に応じて。 ●辻番 武家屋敷の辻々に設置した番所および番人。今の交番の祖とされる。もともとは江戸初期に横行した辻斬りに対応させたもので、幕府・大名・旗本で負担した(旗本は町人に請け負わせた)。 ●捨て物 具体的には捨て子や死体を指す。他に大金や公的な物品など。

木戸と木戸番および自身番


辻番と大名屋敷


世の中が安定し、戦国の世も遠い過去のものとなると凶悪で理不尽な辻斬り、つまり通り魔もほとんどなくなり、辻番は有名無実、飾りもののようになった。しかし、犯罪そのものはいろいろ起こる。町屋一帯ではお互いに気を付け合うものの、大名屋敷の並ぶ一帯は昼でも人通りは少なく、道でなにかがあってもそのそばにある屋敷では関わり合いになるのをいやがり、知らんぷりをする。辻番が屋敷の辻に設置されており、その大名の格式、石高に応じて経費が投入されている。徂徠は、何の役にも立たず、ただカネを捨てるだけのようなものよりも、町人による自身番のようにしたほうがよいこと、堀端や江戸市中と周辺の農村部との境界にも木戸を設置して木戸番を置くことを説いています。これらは、なにかあった場合に現状では役人の数が少ないために十分な対応ができないため、予防の意味から監視装置的に木戸を置いたほうが財政的にも安くつくし、結果的には犯罪をある程度抑止でき、何か起こってもそれに集中して対応できるというわけです。発生してからでは遅い。想定はいくら大きく、広くてもかまわない。想定外だった、という言い逃れで涼しい顔をするほど無責任なことはない。つづく

過去の出来事

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