司馬江漢随筆・続22(終)

【江戸時代の随筆・司馬江漢】続22

 ある人が言った。「私は駿河の生まれで、毎年、遠州秋葉山に参詣している。九月十七日の祭礼の時に、火の舞といって火を神前に投げ振って舞う。しかし、火はどこにも燃え移らず、これが不思議といわれている」と。

 秋葉の神は火を防ぐ神である。私が考えるに、火は天地の中間に充ちて造化の元である。火はどんなものでも燃やすのは自明の理。しかし、水気があると火は移らない。山の上は湿気が多く、万物は湿って樹木が茂り、地気が常に上昇して雲や霧を生じ、そのために火気が衰えて物に燃え移らない。だから夏は火災が少なく、冬は多い。神霊が火を防ぐのではない。


[注解]これも、人々が不思議がることが科学的に根拠のあることを取り上げたものです。江戸時代も後期以降になるといろいろな現象、俗信が少しずつ解明されたり理屈が分かってきて、江漢のように西洋の学問に触れている先進的な人たちはその現象が完全にはわからないにしても、科学的に分析し思考するといった態度ができており、その場で相手の言うことを否定したりけなしたりはしないものの、このように書きつけることでまず読み、理解できる人たちに教えようとしたものです。

 司馬江漢の随筆はまだまだありますが、今回はここまでとし、続いては5代綱吉から8代吉宗にかけて仕えた荻生徂徠の『政談』を取り上げます。これは冒頭から略さずに拙訳で紹介します。

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