司馬江漢随筆・続13

【江戸時代の随筆・司馬江漢】続13

 我が家に上総(かずさ)の者がいる。彼が話すには、「東浦でかつお漁船七、八艘で沖に出て漁をしていると、櫃のようなものが浮かんで漂っておりました。引き揚げてみますと、中に数十両の金。さっそく分配して家に帰り、隣の家にも知らせずにいたのに、他の連中は漁もせず酒を飲んだり遊んだりしたものだから、たちまち村中に知れ渡ってしまったです」と。


[注解]前回の話に続く段。江戸に近い房総半島の上総(千葉県中央部一帯)の住民たちは、海の漂流物を拾って自分のものにしてしまい、東北の人たちのようにたたりを恐れて手出ししないといった遠慮がないという対比。庶民ならおよそ2両もあれば1年食べることができる。数十両を何人で分けたのか不明ですが、派手にパーッと使ったのでしょう。漁師であれば水死者を恐れ、船霊(ふなだま。船玉とも)のご神体を船内に祀るほどで、船霊は女神であることから女性を一人で乗せたり海上に連れてゆくのを禁じたほど(これは今も漁師たちが篤く信仰している)。しかし、それはそれ。海に浮かぶもの、海岸に打ち上げられたもので金や金目のものがあればさっさと持ち帰る。江漢は特に論評していないものの、東北人を批判していることから、こちらのほうが常識的ということを言いたいのでしょう。今はこのように拾得物をネコババしたら罰せられますが。まず届け出ること。

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