司馬江漢随筆・続9

【江戸時代の随筆・司馬江漢】続9

 満ちれば欠けるということは、今日(こんにち)でもよくある誡めの教えである。月が盈ちれば虧(か)ける、盆に水を盛って充分になれば溢れる、国がよく治まれば乱れる、草木の葉が茂ると枯れる、人は老いれば死す。始めある者は終わりがあるのは道理。酒を多く飲めば当然、酔い潰れる。中庸を知る者は君子である。


[注解]誡、盈、虧、盆に水を盛って、などは原文の字、表現をそのまま使用しました。国がよく治まれば乱れるというのは古来より賢者哲人らが注意、警告としている世の常。立派な政治が行われ、市民の意識が高くても、それに慣れてしまうと必ず弛緩する。一度弛緩すると、それを引き締めるのは大変で、反発を買うこともある。さらに、弛緩した所に野望を持った者、悪意ある者が付け入ると、世の中は一気に乱れる。改革だの新しい社会をだのと耳障りのよいことを言って支持を集め、おのれを正当化し、絶対化する。そうなると、政治も市民も意のままになる。そうならないよう、常に意識を持ち、程よいところ(中庸)を維持することが肝要。「中庸」も儒家の教えとして江戸時代には大いに流行った言葉であり意識です。腹八分目、ということさえも根底には中庸の思想を踏まえている。

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