身分制度(3)

【身分制度】3

 士と庶人という分類は支配者と被支配者との関係を示すものです。ところで、武士という言葉は士の上に武がついている。武の士ということ。わざわざ「武」を明示している。これは、単に「士」だと逆に武人(軍人)を統率する文官(先述の「君子」)を指し、文官の下に武官があり、兵卒がいて、日本の幕府としてははなはだ都合が悪い。我が国では「士」に「さむらい」という訓をつけたが、「士」本来の意味は役人、徳や学識のある立派な人、ということで、兵士・戦士という意味もあるものの、一種の尊称であり、定まった身分や役職を指す言葉ではない。これに対して「武士」は定まった身分であり、役人と同じ役職を持つ統治者を指すから、日本独自の使われ方といえます。

もともと「士農工商」という言葉(『管子』が出典)も、本来は職分からつけた階級名で、「士」は官吏や貴族といった特権階級を指す。日本では鎌倉時代に武士が政権を取るまでは朝廷や公家を護衛する低い身分であり、律令制下で「衛士(えじ)」と「士」のつく称があったものの、これはあくまで護衛の士という限定的なもので、特権階級を意味するものとは異なります。

武士という名称は士とは区別されるものであるものの、武士はイコール士であるということを世間に示す必要がある。特に平和な世の中で武を必要としない時代には、「武」の意義を逆に前面に出さなければならない。といって、出し過ぎると、平和なのに乱世を望んでいるとか、好戦的で危険だとか、いたずらに不安を煽っているなどと思われ、顰蹙を買う。そこで、武士は威厳を保つために武家諸法度によって武家自身を統制し、同時に庶民たちをも統制した。しかし、統制ばかりでは息の詰まる暗黒社会となるから、あくまで自発的に武士はおのれを磨き、人の上に立つ立派な人と見せる必要がある。文武に励み、廉恥節操を尊び、倹約に努め、ひとたび有事が起きれば主君の馬前に討ち死にをする覚悟を持ち続ける。こういったことはとても庶民にはできない、どうだ、と言わんばかり。教養があり、風流韻事を解し、しかも身体は頑健で、我欲がなく、ただひたすらご奉公をする。完全無欠の人です。こうやって庶民から尊敬されるようにした――というのはあくまでタテマエで、武士といってもみんながみんな、このようになれるものではない。結局、武士の世界の中でも、高位高官の者は完全な武士像が求められ、誇りとする一方、中士以下はそれぞれの職分を尽くすことが第一であり(庶民と変わらない)、それぞれの体面を保ち、笑われたり軽蔑されることがないように常に言われ続けたものです。つづく

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。