佛像圖彙189

【189】貴船大明神(きぶねだいみょうじん)


[通釈]

貴船大明神 梵字はカ― 九日

城州愛宕(おたぎ)の郡に鎮座する。

本地は不動明王。

男女夫婦の仲をお守りになる神である。


[注]

愛宕 読み仮名が添えてあるように、元は「おたぎ・おたき」と読んだ。これが次第に転訛して「あたご」と読むようになったとされる。現在は愛宕神社などすべて「あたご」が一般化されている。


[解説]

 貴船大明神は、元々は水神。そのため「きふね」と濁らずに訓ずるのが正しいが、この図では「きぶね」と濁音で読ませている。男女夫婦の仲を守護するというのは、和泉式部と貴船の神との以下のような歌の問答に基づくものと思われる。

 和泉式部は藤原保昌と再婚した。しかし、二人の関係はうまくいってなかった。当時は通い婚、つまり夫が妻の家へ通うという夫婦関係だったが、保昌が来なくなった。

 そこで、和泉式部は夫との不仲を解消しようと貴船神社の結社に参拝した。その時に詠んだ歌。

  物おもへば 沢の蛍も わが身より あくがれいづる 魂(たま)かとぞみる

 「あれこれと思い悩んでここまで来てみると蛍が川一面に飛んでいます。まるで魂が体から抜けて飛んでいるようです」。

 和泉式部がこう詠むと、男性の声で次のような歌が聞こえたという。

  おく山に たぎりて落つる 滝つ瀬の 玉ちるばかり ものな思ひそ

 あまり深く思いつめるなという意味で、貴布禰の明神のお返しと伝えられている。


余説。当地は丑の刻詣り発祥の地ともいわれる。以前、京都出身の知人に聞いた話。貴船の奥から出た古木は材木屋が嫌うとか。其の心は製材する時に鋸がダメになる故だとか、あるいは古い時代に打ち込まれた釘が隠れているからだとか。〔冢堀庵〕

過去の出来事

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