目付(続2)

【目付】

 夜中に江戸の街で火事があると、これも目付の出番となります。

 最初に知らせるのは不寝番の坊主で、寝ている宿直当番の目付を起こして「火事でございます」と知らせる。坊主は半鐘の音を聞いて伝えるので、具体的な場所や状況はまだわからない。

 やがて、火事担当の使番(つかいばん)が詳細を記した注進状を持って来ます。これを直ちに将軍に渡さなければならない。目付は将軍の居る「奥」の入口の時計の間に不寝番で控えている奥坊主に注進状を渡す。

 奥坊主は将軍の寝室の前へ行き、同じく不寝番の小姓に渡し、小姓が将軍を起こして火事が発生したことを伝え、注進状を渡す。ひと晩に複数の火事が起こることもあり、そうなると将軍も寝られません。しかし、明暦の大火以降、火事には殊の外敏感で臆病になっているので、「いちいち余に知らせずともよい、係の者らでよきにはからえ」といった態度はとらず、逐一報告を受け、指示が必要な時は指示を出して被害が拡大しないように努めました。

 火事の最中は、使番が櫓(やぐら)で見張りをします。明暦の大火以降、天守閣のない江戸城ですが、見張り台である櫓は周囲に厳然と存在し、火災現場に最も近い櫓に登って見張る。目付も最初と最後に見分し、火事が長引いている時は何度も登る。戦乱の世ではないため、櫓はめったに使われず、掃除もしないために汚かったということです。冬は寒いし、例によって火を恐れているから火鉢など暖房器具を置かないから、ここでじっと立ち続けているのは大変なことでした。

 使番は羅紗(らしゃ)の火事装束を着用しているので防寒具の役割もしたものの、目付は黒紋付の着流しのためにとても寒い。

 火事が城の近くの場合、老中以下おもな面々も登城して万一に備えるため、目付も全員登城し、昼と変わらぬ忙しさとなります。この場合、城中に蝋燭を点けるため、この作業と失火の注意もしなければならないため、火事場同様の繁忙ぶりです。

 目付は役人を監視する役人ですが、監視する役人が不始末を起こすと場合によっては自分も責任を問われかねないため、どっちが監視する側かわからないような有様でした。つづく

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。