佛像圖彙158
【158】愛染明王(あいぜんみょうおう)
[通釈]
愛染明王 梵字はウーン
『金剛経』にいう「身の色は日の出のようであり、熾盛輪に住む。三目にて怒りの形相。首髻は獅子の冠を被り、髪は逆立ち憤怒の姿」と。また五鈷鉤が獅子の頂きに在る。五色の華鬘(けまん)に天帯を垂れて覆う。
[解説]
明王といえば、不動明王と双璧をなすぐらい愛染明王が有名である。
金剛薩埵(こんごうさった)(金剛王菩薩(ぼさつ)と同体)の所変で17尊を眷属とするが、愛染曼荼羅(まんだら)には37尊を眷属とする。真言密教の神。また、愛欲を本体とする愛の神。全身赤色で、三目、六臂、頭に獅子の冠をいただく。憤怒の形相だが、内心は大愛至情の本性をもっている。
愛染の意味は、人間がもっている愛欲をむさぼる心(愛欲貪染(とんぜん))を金剛薩埵の浄菩提心(じょうぼだいしん)の境地(三昧(さんまい))にまで高めた状態をいう。煩悩即菩提のことで、人の煩悩も仏の悟りの智慧に等しいことを意味する。
真言は、
オン・マカラギャ・バゾロウシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク
ウン・タキ・ウン・ジャク (一字心明)
愛染明王十二大願
愛染明王は一切衆生を諸々の苦悩から救うために十二の広大な誓願を発しているとされ、その内容は次のとおり。
智慧の弓と方便の矢を以って、衆生に愛と尊敬の心を与えて、幸運を授ける。
悪しき心を加持して善因へと転換し、衆生に善果を得せしめる。
貪り・怒り・愚かさの三毒の煩悩を打ち砕いて、心を浄化し、浄信(菩提心)を起こさしめる。
衆生の諸々の邪まな心や、驕慢の心を離れさせて、「正見」へと向かわせる。
他人との争いごとの悪縁を断じて、安穏に暮らせるようにする。
諸々の病苦や、天災の苦難を取り除いて、信心する人の天寿を全うさせる。
貧困や飢餓の苦悩を取り除いて、無量の福徳を与える。
悪魔や鬼神・邪神による苦しみや、厄(やく)を払って、安楽に暮らせるようにする。
子孫の繁栄と、家運の上昇、信心する人の一家を守って、幸福の縁をもたらす。
前世の悪業(カルマ)の報いを浄化するだけでなく、信心する人を死後に極楽へ往生させる。
女性に善き愛を与えて良い縁を結び、結婚後は善根となる子供を授ける。
女性の出産の苦しみを和らげ、その子のために信心すれば、子供には福徳と愛嬌を授ける。
[余説]
愛染明王は寶瓶の上に坐し、愛染が藍染に通じる所より染物職人の守護神ともなった。板橋の日曜寺では今猶染物職人の参詣が多い。山梨県塩山の放光寺の尊像は天に向かって弓を構える「天弓の愛染」として名高い。平安末安田義定の願に據り造像される。(冢堀庵記)
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