佛像圖彙71

【71】徳蔵菩薩(とくぞうぼさつ)


[通釈]

徳蔵菩薩

この薩埵(菩薩)は広大大悲の功徳ある大士(菩薩)であり、一切の群生(衆生)それぞれの万機に従って、功德大悲百万の庫蔵を開いて、一切の衆生をお導きなされる。この故に徳蔵菩薩と名づけられた。


[注]

持ち物は笙(しょう)だが、この図版では吹き口の付いている中国式の物。

万機 政治上の多くの重要な事柄、特に帝王の政務のことだが、ここでは人々の求めのこと。1868年(明治元年)3月14日に発布された五箇条の御誓文の最初の条文「一、広く会議を興し、万機公論に決すべし」の「万機」は「公論」を会議にかけた上で、その結果によって天皇が政治を行うということだが、上の徳蔵菩薩の説明文の「万機」は「公論」の意である。


[解説]

 徳蔵菩薩は衆生の求めに応じて、功徳大悲の宝庫を開き、衆生を救う菩薩。過去仏の一人、日月燈明仏には、妙光菩薩・徳蔵菩薩という二人のお弟子があり、智恵の優れた妙光菩薩に対しては妙法蓮華経を説き示され、慈悲深く徳の高い徳蔵菩薩に対しては、汝は未来に成仏して浄身仏と称すべしとの記別(予言的証明)を与えて涅槃に入ったとされる。妙光菩薩はのちの文殊師利菩薩。「徳蔵」を寺号とする寺院も各地にある。


[雑記]

梁塵秘抄45番です。


真言教のめでたさは、蓬窓宮殿隔てなし、君をも民をも押しなべて、大日如来と説いたまふ

 蓬窓宮殿(ほうそう きゅうでん。貧しいあばら家と立派な宮殿)


 真言教(当時の呼称)がすばらしいのは、貧富の差も身分の違いも関係なく、信仰する人に大日如来の教えを説いてくださることよ、という意味です。

 真言宗は大日如来を教主とし、その説法を金剛薩埵が聞いて教法が起こり、真言宗の教えが伝わったもので、以下の8人を付法の八祖として特に尊崇しています。

  大日如来(だいにちにょらい)

  金剛薩埵(こんごうさった)

  龍猛菩薩(りゅうみょうぼさつ)

  龍智菩薩(りゅうちぼさつ)

  金剛智三蔵(こんごうちさんぞう)

  不空三蔵(ふくうさんぞう)

  恵果阿闍梨(けいかあじゃり)

  弘法大師

 このうち大日如来と金剛薩埵は実在しないため除いて、善無畏三蔵(ぜんむいさんぞう)と一行禅師(いちぎょうぜんじ)を加えて伝持の八祖として崇める寺院もあります。一般に宗教は存在したものとして崇めるものですが、エリートだった弘法大師の影響もあってか、真言宗は科学的に捉える宗派のようで、大日如来は一方で実在しないと割り切り、その上で教えは教えとして崇めている。原理主義になると、実在したし、教えは一字一句正しく、固く守らなければならないことを要求して、結果的にいろいろな社会問題も引き起こしたりしています。

 真言宗は平安末期頃から宗内論争が起こりはじめ、やがて古義・新義に分かれ、それぞれに宗派ができていきますが、この「真言教のめでたさは」の歌は、まだ論争が発生する前(お大師さま入滅からまだあまり経っていない時期)の、宗団としてまとまり、穏やかな時代の様子を窺い知ることができます。画像は八祖大師(光林寺=ウィキペディアで公開されているもの)。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。