佛像圖彙70

【70】虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)


[通釈]

虚空蔵菩薩

五方五仏の法躰なれば虚空法界において全て悟りに至らぬ事はない。たとえば虚空を蔵というかごとく虚空界には分限方所が無い。この菩薩も左のごとく大悲・利生・智慧は無窮であり、その限りないことは虚空の蔵とするに比例されることから、このように名づけられたのである。


[注]

この図は「鞨鼓(かっこ)」を演奏している。


[解説]

 虚空蔵菩薩。こくうぞうぼさつ。こくぞうぼさつ、とも。知恵が虚空のように広大な菩薩。 頭に宝冠を頂き身に飾りをつけ,右手に知恵を象徴する剣,左手に福徳を表す知恵宝珠を持つ(『佛像圖彙』の絵はまったく異なった姿をしている。なぜこのような姿を選んだのか、興味深いところではある)。現世・来世の利益を授けるとされ,この菩薩を本尊とする虚空蔵法という修法が平安期以後広く行われた。

 種字はタラーク (त्राः、Trāḥ)。真言は「オン バザラ アラタンノウ オンタラク ソワカ」(Oṃ vajraratna, Oṃ trāḥ svāhā)や、「ノウボウ アキャシャキャラバヤ オンアリキャ マリボリソワカ」(Namo Ākāśagarbhāya, Oṃ ali kalmali mauli svāhā) などが知られる。「明けの明星」は虚空蔵菩薩の化身・象徴とされ、明星天子、大明星天王とも呼ばれる。

 画像は絹本著色虚空蔵菩薩像 東京国立博物館蔵 平安時代後期 国宝。


[雑記]

 『梁塵秘抄』158

 観音深く頼むべし、弘誓の海に船うかべ、沈める衆生引き乗せて、菩提の岸まで漕ぎ渡る

 弘誓(ぐぜい。菩薩が自らの悟りと衆生の救済を願ってたてる広大な誓願)

 観音さまは深く帰依するがよい。弘誓の海に船を浮かべ、海の底に沈もうとしている衆生を引き上げては船に乗せ、菩提の岸まで漕いで渡らせてくれるのだから。

 観音さまと地蔵さまは古来より諸仏の中でも絶大な人気を誇る仏さまです(ここでは広義の意味の仏)。釈迦如来や阿弥陀如来も多くの信仰を集めてきたものの、如来さまは浄土におわしてこちら(此岸)にはお出でになられないという印象があるのに対し、観音さまは直接私たちの悩みを聞いてくださる、お地蔵さん(この呼び方こそ大衆に親しまれている証拠)は特に子どもたちを守り、不幸にして夭折してしまった子たちを浄土へ導き、悪鬼たちから守るという信仰があって、薬師如来などとともに現世利益を求める人が多くなった鎌倉時代以降に特に盛んとなったようです(平安時代までは女流文学などに見られるように、来世、後生の幸福を強く願って信仰している)。

過去の出来事

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