仏像圖彙2
【2】誕生釈迦(たんじょうのしゃか)
[訳]
中天竺(ちゅうてんじく)のカビラ國の浄飯王(シュットーダナ)を父とし、マーヤー夫人(内典では「ぶにん」と訓ず。内典は仏教書。それ以外は外典)を母とす。浄飯王即位三十年五月八日寅の刻(未明)にお生まれになった。四方を踏む事それぞれ七歩。手で天地を指さし「四維上下、唯我最尊」とのたまわれた。薩婆悉達(さつばしった)と名付けた。以上の事は法苑玉林及び稽古略に詳しい。
[註]
摩耶夫人を祀る寺は数少なく寡聞にして東京では品川區小山の朗惺寺(但し境内の別堂)、関西では六甲の天上寺(此方は本尊とする日本唯一の寺)位。
『法苑珠林』(ほうおんじゅりん)は唐の総章元年に道世の編纂した佛教類書。全百巻。
『稽古略』は正しくは「釋氏稽古略」。元至正年間に僧覺岸が撰した物
[解説]
本書の筆頭は誕生釈迦仏(しゃかぶつ)。釈迦降誕の姿を表した像。釈迦は紀元前6世紀ないし5世紀の4月8日の朝、ルンビニー園の無憂樹の下で花をとろうとして右手をあげた母マーヤー夫人のわきの下から生まれ、7歩あるいて右手で天を、左手で地をさして獅子吼(ししく)したといわれ、この天地をさす姿を像にしたのがこの誕生仏。毎年4月8日の灌仏会(かんぶつえ)・仏生会(ぶっしょうえ)(花祭り)の本尊として灌仏盤の中心に安置し甘茶を注ぐのは、誕生のとき竜王が香水(こうずい)を供養したとの故事による。
釈迦が最初に言ったとされる言葉は、一般には「天上天下唯我独尊」(てんじょうてんがゆいがどくそん)だが、本書によると「四維上下、唯我最尊」という。四維(しい)は乾(いぬい)(=西北)・坤(ひつじさる)(=西南)・艮(うしとら)(=東北)・巽(たつみ)(=東南)の四つの方位のことで、上下とともにこの世界を指す。唯我最尊(ゆいがさいそん)は訓読すれば「ただわれのみもっともたっとし(とうとし)」。私だけが最も尊い存在である。「独尊」だと「ひとりたっとし」で、意味的には「最尊」より弱くなるが、自分だけと強調するのは同じ。この言葉については、古来よりさまざまな評価がなされている。もちろん、宗教上ではそのまま受け取り、特に批判など微塵もすべきではないが、一般的には「独り善がり」といったことで眉を顰める向きもある。
この言葉については、直接的には釈迦自身のことであるとともに、この世に生を受けた者はすべて尊いのである、自分自身がこの世で最高の存在なのだ、ということで自分を大切にし、自信を持つように、という解釈が良いように思う。つまり普遍的な言葉である。
画像は国宝の誕生釈迦仏立像(たんじょうしゃかぶつりゅうぞう)。制作は飛鳥時代。像高47.0cm。国宝指定1952年11月22日。東大寺にあり。
摩耶夫人(まや-ふじん/ぶにん、パーリ語またはサンスクリット: Māyā、माया、マーヤー)は、ゴータマ・シッダッタ(またはガウタマ・シッダールタ 釈迦)の生母。「マーヤー(Māyā)」は一般にこの人物の名前だとされているものの、近年の学説では、母を意味するmātāの俗語形であって本名ではないともされている。画像はWikipediaより。右手のわきの下に釈迦の姿が。
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