和俗童子訓125
貝原益軒著『和俗童子訓』125
○凡此十三条を、女子のいまだ嫁せざるまへに、よくをしゆべし。又、かきつけてあたへ、おりおりよましめ、わするる事なく、是を守らしむべし。凡世人の、女子を嫁せしむるに、必其家の分限にすぎて、甚(だ)をごり、花美をなし、おほくの財をついやし用ひ、衣服・器物などを、いくらもかひととのへ、其余の饗応贈答のついえも、又、おびただし。是世のならはし也。されど女子をいましめをしえて、其身をつつしみおさめしむる事、衣服・器物をかざれるより、女子のため、甚(だ)利益ある事をしらず。いとけなき時より、嫁して後にいたるまで、何の教もなくて、只、其むまれつきにまかせぬれば、身をつつしみ、家をおさむる道をしらず。おつとの家にゆきて、をごりをこたり、しうと、をつとにしたがはずして、人にうとまれ、夫婦和順ならず。或不義淫行もありて、おひ出さるる事、世に多し。是をや(親)のをしえなきがゆへなり。古語に、「人よく百万銭を出して、女を嫁せしむる事をしりて、十万銭を出して、子をおしゆる事をしらず。」といへるがごとし。婚嫁の営(いとなみ)に、心をつくす十分が一の、心づかひを以て、女子をおしえいましめば、女子の身をあしく持なし、わざはひにいたらざるべきに、かくの如くなるは、子を愛する道をしらざるが故也。
【通釈】
以上の十三条を女子がまだ嫁入りする前によく教えること。さらに、書き付けて与え、折々読ませて、忘れることがないようにこれを守らせるように。
およそ世人が女子を嫁がせるにあたり、ほとんどその家の分限に過ぎて甚だ奢り、華美で、多くの財を費やして失い、衣服・器物などをいくらでも買い調え、ほかにも饗応贈答に費やす財もおびただしい。これがいまの世の習わしになっている。
しかし、女子を戒め教えて我が身を慎み修める事は、衣服や器物を飾ることよりも女子のために甚だ利益がある。この事を知らず、幼い時より嫁いでから後にいたるまで、何の教もなくて、ただ生まれつきの性格に任せたならば、身を慎み、家を治める道が分からない。
夫の家に行き、奢り怠り、舅、夫に従わず、人にうとまれ、夫婦が和順ではなく、あるいは不義淫行もあって追い出される事は世間に多い。これは親の教えがないからである。古語に、「人よく百万銭を出して、女を嫁せしむる事をしりて、十万銭を出して、子をおしゆる事をしらず」というのがそれである。
婚姻の準備に心を尽くす、その十分の一の心遣いでよいから女子を教え戒めたなら、女子の身持ちが悪く、禍いに至るということは避けられるのに、身持ちが悪く禍いを招いてしまうのは、親が子を愛する道を知らないためである。
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