和俗童子訓124

貝原益軒著『和俗童子訓』124

十三に曰、下女をつかふに、心を用ゆべし。いふかひなきものは、ならはしあしくて、ちゑなく、心かだましく、其上、ものいふ事さがなし。夫の事、しうと・しうとめ・こじうとの事など、わが心にあはぬ事あれば、みだりに其主にそしりきかせて、それをかへりて忠とおもへり。婦人もし、ちゑなくして、それを信じては、かならずうらみ出来やすし。もとより夫の家は、皆他人なれば、うらみそむき、恩愛をすつる事やすし。つつしんで、下女のことばを信じ、大せつなる、しうと・小じうとの、したしみをうすくすべからず。もし、下女すぐれてかだましく、口がましくて、あしきものならば、はやくおひやるべし。かやうのものは、かならず家道をみたし、親戚の中をも、いひ妨ぐるもの也。をそるべし。又、下女などの、人をそしるを、きき用ゆる事なかれ。殊に、夫のかたの一類の事を、かりそめにも、そしらしむべからず。下女の口を信じては、しうと、しうとめ、夫、こじうと、などに和睦なくして、うらみそむくにいたる。つつしんで讒を信ずべからず。甚(だ)をそるべし。又、いやしきものをつかふには、我が思ふにかなはぬ事のみ多し。それを、いかりの(罵)りてやまざれば、せはしくはらだつ事おほくして、家の内しづかならず。あしき事は、時々いひをしえて、あやまりを正すべし。いかりの(罵)るべからず。すこしのあやまちは、こらえていかるべからず。心の内には、あはれみふかくして、外には行儀かたく、いましめてをこたらざるやうにつかふべし。ゆるがせなれば、必行儀みだれ、をこたりがちにて、礼儀をそむき、とがをおかすにいたる。あたへめぐむべぎ事あらば、財をおしむべからず。但わが気に入たるとて、忠なきものに、みだりに財物をあたふべからず。


【通釈】

十三、下女を使うにはよく注意すること。言って聞かせても甲斐が無い者は、習性が悪く、知恵が無く、心がねじ曲がり、その上、言うことが屁理屈ばかりである。夫の事、舅・姑・小舅の事など、我が心に合わない事があれば、みだりにその主人に悪口を告げて、それをまるで忠実だと思うほどである。婦人がもし知恵がなくてそれを鵜呑みにしては、必ず恨み心が生じる。もとより夫の家は、皆他人であるから、恨みそむき、恩愛を捨てる事は容易である。だからこそ何事も慎んで、下女の言葉を信じ、大切なる舅や小舅との信頼関係を薄くしてはならない。もし、下女がとても心がねじ曲がり、口やかましくて悪い性格ならば、その者は早く追い出してしまうがよい。このような者は、必ず家の空気を乱し、親戚の仲をも悪くさせてしまうものである。なんと恐ろしいことか。

また、下女などが人の悪口を言っても、それを聞き届けてはいけない。殊に、まちがっても夫の身内の事を悪く言わせてはならない。下女の言うことをそのまま信じては、舅や姑、夫、小舅などと睦まじくせず、恨んだり背くことになる。慎んで讒言を信じてはならない。とても恐ろしいことである。

また、身分卑しい者を使うには、我が思いにかなわぬ事が多いものである。それを、いちいち怒り罵倒ばかりしていては、気ぜわしく腹立たしくなるばかりで、家の内は鎮まることがない。悪い事は、時々教え聞かせて、誤りを正すようにさせる。決して怒ったり罵ってはならない。少しの過ちはこらえて怒らないこと。心の内には憐れみを深くして、外には行儀正しくいましめて、怠らないように使うこと。いい加減にすれば、必ず行儀が乱れ、怠りがちになって、礼儀に背いて間違いを犯すようになる。何か与え恵むべきことがあれば、財を惜しんではならない。ただし、自分に取り入ろうとして、忠実でない者に対しては、みだりに財物を与えてはいけない。

──

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。