和俗童子訓120

貝原益軒著『和俗童子訓』120

八に曰、巫・かんなぎなどのわざにまよひて、神仏をけがし、ちかづき、みだりにいのり、へつらふべからず。只、人間のつとめをもはらになすべし。目に見えぬ鬼神(おにかみ)のかたに、心をまよはすべからず。

九に曰、人の妻となりては、其家をよくたもつべし。妻の行あしく、放逸なれば、家をやぶる。財を用るに、倹約にして、ついえをなすべからず。をご(奢)りをいましむべし。衣服、飲食、器物など、其分にしたがひて、あひにあひ(相似合)たるを用ゆべし。みだりに、かざりをなし、分限にすぎるを、このむべからず。妻をごりて財をついやせば、其家、必貧窮にくるしめり。夫たるもの、是にうちまかせて、其是非を察せざるは、おろかなりと云べし。


【通釈】

八、巫(みこ・かんなぎ)などのわざに惑わされて神仏をけがし、なれ近づき、みだりに祈り、へつらうようなことをしてはならない。ただ、人間として現実のつとめを専一にすべし。目に見えぬ鬼神(おにかみ)の姿に心を迷わせてはならない。

九、人の妻となっては、その家をよく保つようにすること。妻の行ないが悪く、放逸であれば、家族を不和にさせる。お金を使う際は、倹約につとめて浪費をしないようにする。奢りを戒めること。衣服、飲食、器物など、分相応にして自分に似合ったものを使う。みだりに飾り立てたり、分限に過ぎたものを好んではならない。妻が奢って家財を費やせば、その家は必ず貧窮に苦しむようになる。夫たるもの、妻にまかせてその是非を察しないのは愚かである。


【語釈】●巫 この字一字で「みこ」「かんなぎ」両方の意味があり、両者が混同されているが、「かんなぎ」は神社に仕える巫女、歩き巫女は「みこ」で別物である。歩き巫女とは、特定の神社に所属せず、全国各地を遍歴し、祈祷・託宣・勧進などを行うことによって生計を立てていた。旅芸人や遊女を兼ねていた歩き巫女も存在し、遊女の別名である白湯文字、旅女郎という呼称でも表現される。益軒はこの歩き巫女を特に警戒しているのだろう。

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