和俗童子訓100
貝原益軒著『和俗童子訓』100
世間通用の文字を知るべし。書跡よくしても、文字をしらざれば用をなさず。天地、人物、人事、制度、器財、本朝の故実、鳥獣、虫魚、草木等の名、凡世界通用の文字をしるべし。世俗は通用の文字をしるに、順和名抄、節用集、下学集などを用ゆ。順和名抄は用ゆべき事多し。又あやまり多し。功過相半なり。節用集、下学集は誤多し。用ゆべからず。世俗是等の書を用ゆる故、誤多し。近年印行せし訓蒙図彙、和爾雅、倭字通例書、などをゑらび用ゆべし。今、世俗の通用する漢名・和名、あやまり甚(だ)多し。能ゑらんで書べし。
【通釈】
世間に通用する文字を知ること。書跡がよくても、文字を知らなければ役に立たない。天地、人物、人事、制度、器財、本朝の故実、鳥獣、虫魚、草木等の名、およそ世界に通用している文字を知ること。世間では通用の文字を知るのに、「順和名抄」「節用集」「下学集」などを用いる。「順和名抄」は役に立つが、一方では誤りも多く、功罪相半ばであるなり。「節用集」と「下学集」は誤りが多く、用いてはならない。世間ではこれらの書物を用いるために、誤りが多い。近年刊行された「訓蒙図彙」「和爾雅」「倭字通例書」などを選んで用いること。今、世間で通用する漢名・和名は、誤りが甚だ多い。よく選んで書くように。
【語釈】●順和名抄 和名類聚抄(倭名類聚鈔)。平安時代中期に作られた辞書。承平年間(931年 - 938年)、勤子内親王の求めに応じて源順(みなもとのしたごう)が編纂した。略称は和名抄(わみょうしょう)。 ●節用集 室町時代から昭和初期にかけて出版された用字集・国語辞典の一種。漢字熟語を多数収録して読み仮名をつける形式をとっている。 ●下学集 かがくしゅう。室町時代の国語辞典。2巻。3000ほどの単語を、その意味によって18の門に分けて羅列している。 ●訓蒙図彙 きんもうずい。中村惕斎によって寛文6年(1666年)に著された図入り百科事典(類書)。全20巻。 ●和爾雅 わじが。江戸前期の辞書。8巻。貝原好古著。元禄7年(1694)刊。中国の「爾雅」に倣って日本で用いられる漢語を意義によって24門に分類し、音訓を示し、漢文で注解を施したもの。 ●倭字通例書 江戸前期の辞書。橘成員編著。
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