和俗童子訓84
貝原益軒著『和俗童子訓』84
小児の時より、大字を多く書習へば、手、くつろぎはたらきてよし。小字を書で、大字をかかざれば、手、すくみてはたらかず。字を習に、紙をおしまず、大(おおい)に書べし。大に書ならへば、手はたらきて自由になり、又、年長じて後、大字を書によし。若、小字のみ書習へば、手腕すくみて、長じて後、大字をかく事成がたし。手ならふには、あしき筆にてかくべし。後に筆をゑらばずしてよし。もしよき筆にて書習へば、後あしき筆にて書く時、筆蹟あしく、時々よき紙にかくべし。あしき紙にのみ書ならへば、よき紙にかく時、手すくみて、はたらかず。
【通釈】
小児の時より、大字を多く書き習えば、手はよく動くようになるのでよい。小字ばかり書いて大字を書かないと、手がすくんで思うように動かない。字を習うのに、紙を惜しんではならない。たくさん使って書くのがよい。たくさん書き習えば、手がよく動いて自由になり、さらに年長じて後、大字を書くの上でよい。もし、小字だけ書き習えば、手腕がすくみ、長じて後、大字を書くことがままならなくなる。
手習をするには、悪い筆で書くのがよい。さすれば後に筆を選ばなくてすむ。もし善い筆で書き習えば、あとで悪い筆で書く時に筆蹟が悪くなる。
時々はよい紙に書くことも大切である。悪い紙ばかり書き習えば、よい紙に書く時に手がすくんで思うように動かせないものである。
【解説】
現在の習字(書写)は、書いた文字の出来不出来ばかりを気にするが、基礎は手の動きを覚えることが先。書く行為は指先ばかり集中するが、ひじから先全てを使って、初めてよい運筆かできる。特に大字は腕全体を使うので、初学の段階では推奨したい。また、昔は紙が貴重品だったから、真っ黒になるまで書いた。これも、運筆を覚えるためだから、書いた字は二の次。しかし、益軒翁は紙を惜しむなという。庶民ではいささか無理というものであろう。
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