和俗童子訓83

貝原益軒著『和俗童子訓』83

虚円正緊は、筆をとる四法也。しらずんばあるべからず。虚とは指を掌にちかづけずして、掌の内を、空しくひろくするを云。あぶみの形の如くなるをよしとす。円とは、掌の外、手の甲をまるくして、かどなきを云。虚円の二は掌の形なり。正とは、筆をすぐにして、前後左右にかたよらざるを云。かくの如くならざれば、筆の鋒(さき)あらはれ、よこあたりあり。緊とは、筆をきびしくかたくとりて、やはらかならざるを云。上よりぬきとらりれぬやうに取てよし。かくのごとくならざれば、筆に力なくしてよはし。正緊の二は筆の形なり。此四法は筆をとるならひ也。日本流の筆の取やうは、是にことなれり。単鈎にとりて、筆鋒をさきへ出し、やはらかにして、上よりぬき取をよしとす。


【通釈】

虚円正緊(きょ・えん・せい・きん)とは、筆を執る四つの方法である。知らなくてはいけない。

虚とは、指を掌に近づけずに、掌の内を膨らませるように広くするのをいう。あぶみの形のようにするのがよい。

円とは、掌の外、手の甲をまるくして、かどがないのをいう。虚と円の二つは掌の形をいう。

正とは、筆をまっすぐにして、前後左右にかたよらないのをいう。このようにしないと、筆の鋒(さき)が出て、横にあたってしまう。

緊とは、筆をしっかりと握って柔らかでないのをいう。上から抜き取られないように握るのがよい。このようにしないと、筆に力がなくて弱くなってしまう。正と緊の二つは筆の形をいう。

以上の四法は筆を執るために習う。但し、日本流の筆の執り方はこれとは異なる、。単鈎に執って、筆鋒を先へ出し、柔らかくして上から抜き取るように握るのをよしとする。


【語釈】●あぶみ 鐙。馬具の一種。乗馬で用いる。鐙革で鞍から左右1対を吊り下げ、騎乗時に足を乗せる。ただし完全に足を深く通すのではなく、爪先を乗せるようにして使う。

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