和俗童子訓80
貝原益軒著『和俗童子訓』80
凡文字を書ならふに、高く墨をとり、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事なかれ。高く筆をとり、双鈎し、端正に字を書べし。双鈎とは、筆のとりやうなり。凡字を書に、一筆一画、平正分明にして、老草に書べからず。老草とは、平正ならず、わがままに、そさうにか(書)くを云。手本を能見て、ちがはざるやうに、しづかに学ぶべし。才にまかせ、達者ぶりして、老草にかけば、手跡あがらず。書を写しならふにも、平正にかくべし。常の書札などかくにも、手習と思ひて、つつしみて正しくかくべし。かくのごとくすれば、手跡進みやすし。手を習ふには、まづ筆の取やうをしるべし。
【通釈】
およそ文字を書き習うには、高く墨をとり、姿勢を正してすり、すり口をゆがめてはならない。また、手を汚さないように。高く筆をとり、双鈎(そうこう)し、端正に字を書くこと。双鈎とは、筆のとり方のこと。
およそ字を書くのに、一筆一画、形を正しくはっきりと書き、老草に書いてはならない。老草とは、正確ではなく、自己流で雑に書くのをいう。手本をよく見て、少しも違わないように、静かに学ぶこと。自分の才能にまかせ、達者ぶりして老草に書けば、手跡は上達しない。書を写し習うにも、端正に書くこと。日常の手紙などを書く場合も、それを手習と思って、慎んで正しく書くように心がけること。このようにすれば、手跡は進歩しやすくなる。手習は、まず筆の取り方を知ることが大切である。
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