和俗童子訓69

貝原益軒著『和俗童子訓』69

小児の時、経書の内、とりわき孟子をよく熟誦すべし。是義理の学に益あるのみならず、文章を作る料なり。此書、文章の法則(てほん)となり、筆力を助く。朱子も、孟子も熟誦して文法をさとれりといへり。又、文章を作るためには、礼記の檀弓、周礼の考工記を誦読すべし。是等は皆古人の説なり。又、漢文の内数篇、韓・柳・欧・蘇・曾南豊等の文の内にて、心に叶へるを択びて、三十篇熟誦し、そらに書て忘れざるべし。作文の学、必此如くすべし。


【通釈】

小児の時、経書の内ではとりわけ孟子をよく熟読暗誦すること。この書は義理の学に益があるだけでなく、文章を作る好材料となる。この書は文章の手本となり、筆力を助ける。朱子も、孟子も熟誦して文法を悟ったといわれている。

また、文章を作るためには、礼記(らいき)の檀弓(だんぐう)、周礼(しゅらい)の考工記を誦読するように。これらは皆古人の説である。

また、漢文の内数篇、韓・柳・欧・蘇・曾南豊等の文の内で心に叶えるものを択び、三十篇熟誦し、そらに書て忘れないようにする。作文の学は、必ずこのようにすべし。


【語釈】●礼記 儒教の最も基本的な経典である経書(けいしょ)の一つで、『周礼』『儀礼(ぎらい)』と合わせて「三礼(さんらい)」と称される。全49篇。現代に伝わる『礼記』は、周から漢にかけての儒学者がまとめた礼に関する記述を、前漢の戴聖(たいせい)が編纂したもので、内容は、政治・学術・習俗・倫理などあらゆる分野に及ぶが、まとまりはなく雑然としている。 ●周礼 儒教教典の一。三礼の一つ。周公の作と伝えられるが、成立は戦国時代以降。周王朝の官制を天地春夏秋冬の六官に分けて記述したもの。そのうち冬官は失われたため「考工記」で補われている。周官。 ●考工記 中国最古の技術書。車,弓,矢その他の製作法について書いている。漢の武帝のとき,河間(かかん)の献王が『周礼』を見出したが,冬官司空の部分が欠けていたので,『考工記』で補った。異説もあるが,戦国時代の斉の人の作と推定されている。 ●韓・柳・欧・蘇・曾南豊 唐宋八大家(中世中国の唐代から宋代にかけての八人の文人)のうち、唐の韓愈(かんゆ)、柳宗元(りゅうそうげん)、宋の欧陽脩(おうようしゅう)、蘇洵(そじゅん)、蘇軾(そしょく)、蘇轍(そてつ)、曾鞏(そうきょう)のこと。他に王安石(おうあんせき)がいる。蘇洵、蘇軾、蘇轍は親子で、三蘇とも称されている。

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