和俗童子訓58
貝原益軒著『和俗童子訓』58
凡そ書をよむには、いそがはしく、早くよむべからず。詳緩(ゆるやか)に之を読て、字々句々、分明なるべし。一字をも誤るべからず。必ず心到、眼到、口到るべし。此三到の中、心到を先とす。心、此に在らず、見れどもみへず、心到らずして、みだりに口によめども、おぼえず。又、俄かに、しゐて暗によみおほえても、久しきを歴ればわする。只、心をとめて、多く遍数を誦すれば、自然に覚えて、久しく忘れず。遍数を計へて、熟読すべし。一書熟して後、又、一書をよむべし。聖経賢伝の益有る書の外、雑書を見るべからず。心を正しくし、行儀を慎み、妄にいはず、わらはず、妄に外に出入せず、みだりに動作せず、志を学に専一にすべし。つねに暇ををしみて、用もなきに、いたづらに隙をついや(費)すべからず。
【通釈】
およそ書物を読むにあたっては、忙しそうに早く読んではならない。ゆっくり読んで、一字一句よくわかるようにする。一字も間違ってはならない。必ず心到り、眼到り、口到るようにする。この三到の中、心到を先とする。心がここになければ、文字を見ても頭に入らないし、心が到らないと、口に出して読んでも覚えられない。
また、いきなり無理に暗記させ覚えさせても、時間が経てば忘れてしまう。ひたすら心を集中して何度も声に出して読めば、自然に覚えて、長く忘れない。多読して熟読すること。
ひとつの書物を熟読した後、続いて別の書物を読むようにする。聖経賢伝の有益な書の他は、雑書を見てはならない。心を正しくし、行儀を慎み、みだりに話をせず、笑わず、みだりに出たり入ったりせず、あれこれながらでやろうとせず、志を学問に専一にすること。常に時間を惜しみ、必要もないことで無駄に時間を費やしてはならない。
【解説】
昔の人は書物を読む時は、基本的に音読、つまり声に出して読んだ。一人で読書をする時でもそう。明治生まれの人も書物だけでなく新聞を読む時でも声に出して読んだという。少なくとも戦前までは学校でも教科書といえば声に出して読むものとした。声に出しながら読むほうが黙読よりも覚えやすいといわれているが、昔の人たちの記憶力の凄さをみると、そういう読書法が良いことは確かなようだ。
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