和俗童子訓52

貝原益軒著『和俗童子訓』52

十歳、此年より師にしたがはしめ、先五常の理、五倫の道、あちあら云きかせ、聖賢の書をよみ、学問せしむべし。よむ所の書の内、まづ義理のきこえやすく、さとしやすき切要なる所をとき聞すべし。是より後、やうやく小学、四書、五経をよむべし。又、其ひまに、文武の芸術をもならはしむべし。世俗は、十一歳の頃、やうやうはじめて、手習などをしゆ、おそしと云べし。をしえは、早からざれば、心すさみ気あれて、をしえをきらひ、おこたりにならひて、つとめまなぶ事かたし。小児に、はやく心もかほばせも、温和にして人を愛しうやまひ、善を行なふ事を教ゆべし。又、心も身のたち居ふるまひも、しづかにして、みだりうごかず、さはがしからざらん事ををしゆべし。


【通釈】

十歳。この年より師に従わせ、まず五常の理、五倫の道を大まかに言い聞かせ、聖賢の書を読み、学問させる。読む書物の内、まず義理の聞いて理解しやすい大切な所を説いて聞かせる。その後、少しずつ小学、四書、五経を読むようにする。

また、その合い間に、文武の芸術をも習わせる。世間では、十一歳の頃にやっと始めて、手習いなどを教えるが、これでは遅い。教えは早く始めないと、心がすさみ気が荒れて、教えを嫌い、怠けぐせかせついて、努め学ぶ事は難しい。

小児の時から、早く心も顔つきも温和で人を愛し敬い、善を行なう事を教えること。また、心も身の立ち居振る舞いも、静かでみだりに動かず、騒々しくしない事を教えること。


【語釈】

●五経 漢代に官学とされた儒学における経書(けいしょ)の総称。『易』『書』『詩』『礼』『春秋』の5つ。他に早くに失われた『楽』があり、それを併せて「六経(りくけい)」とも言う。儒教の考えでは、孔子以前に編まれた書物を原典として孔子の手を経て現在の形になったと考えられている。それぞれに碩学らの注釈やさらにその注釈があり、本文以上に尊ばれているものもある。

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